心不全の薬物治療の基礎

目的

• 心不全で使用する薬剤の作用機序、主な薬剤、主な働きとその特徴を理解する

心不全治療薬の概念

• 1回拍出量を決める三大因子を変化させて、心不全の改善を図る
  • 前負荷：心臓へ戻る血流
  • 後負荷：心臓から出る血流
  • 心収縮力：心臓自体の働き
• 代償機能に関する因子を抑制することで、心不全の改善を図る
  • 代償機能：心臓のポンプ機能が低下した時に働く機能で、交感神経系およびレニン・アンジオテンシン・アルドステロン系（RAA系）の働きにより、前負荷・後負荷が増大し、血圧が維持される

作用機序による分類と特徴

前負荷の軽減

• 血管拡張薬や利尿薬により、前負荷および肺うっ血、浮腫などを改善する

薬の種類と特徴

• 利尿薬
  • ループ利尿薬・サイアザイド系利尿薬・K保持性利尿薬などがある
  • 腎臓の尿細管によるNaの再吸収を阻害することで、循環血液量の減少を図り、前負荷・肺うっ血・浮腫を改善する
• 血管拡張薬
  • 硝酸薬であるニトログリセリンなどがある
  • 舌下、静脈注射、スプレー噴霧（急性期）にて投与する
  • 低用量の場合、静脈系を拡張し血液を静脈系にプールさせることで、肺うっ血・浮腫を改善する
• 利尿薬および血管拡張薬
  • Na利尿ペプチドがある
  • 血管拡張・Na利尿・RAA系抑制などの減負荷効果があり、肺うっ血・浮腫を改善する
  • 心拍数は維持したまま（交換神経抑制作用）心拍出量を増加する

後負荷の軽減

• 血管拡張効果により、後負荷を軽減する

薬の種類と特徴

• 血管拡張薬
  • ACE阻害薬・ARBがある
  • 主に動脈系を拡張することで、後負荷の軽減を図る

心収縮力の増強

• 強心薬の作用により、血管拡張や心収縮力増強などを図る

薬の種類と特徴

• 強心薬
  • ジギタリス・カテコラミン・PDE阻害薬などがある
  • ジギタリスは、細胞内Caイオン濃度を上昇させて心収縮力を増強させ、AFなどを合併する心不全では第一選択薬となるが、治療域が狭く中毒性もあるため、血中濃度のモニタリングが必要
  • カテコラミンは、アドレナリン受容体と結合することで心収縮力増強・心拍数増加・心筋弛緩速度増加・血管拡張などの作用があり、急性心不全や慢性心不全の急性増悪に使用される
  • PDE阻害薬は、心収縮力増強・血管平滑筋弛緩作用のあるcAMPの分解酵素（PDE）を阻害し、心収縮力増加・血管拡張を図る

その他

• 交感神経抑制・RAA系抑制などにより、前負荷・後負荷の軽減を図る

薬の種類と特徴

• • ACE阻害薬（アンジオテンシン変換酵素阻害薬）・ARB（アンジオテンシンⅡ受容体拮抗薬）・アルドステロン拮抗薬・β遮断薬がある
  • ACE阻害薬・ARB・アルドステロン拮抗薬は、心不全で活性化されたアンジオテンシンⅡを抑制することで前負荷・後負荷の軽減を図り、生存率が改善するといわれている
  • β遮断薬は、交感神経を抑制する働きがあり、慢性心不全（長期投与）に対する心機能・症状・予後の改善が期待される
    ＊日本ではまだ保険適応となる薬が少ない