世の中的には結構な需要があるナースの派遣。
今回はいくつかのエピソードから、職場ごとの違いを考えてみましょう。
1. 病棟への1日単位での派遣
病院内で人手が足りない時、基本的には別の病棟から人を借りることが多いのですが、それでも足りない場合は派遣ナースの出番です。今回はAさんの体験から。
Aさんの場合
まず病院に着いたら更衣室に通されます。派遣ナース用のロッカーにある白衣に着替え、荷物を入れて病棟へ。
そこで初めの5分間ほどで、ナースステーションと処置室の物品の場所を教わりましたが、この時の説明はこれだけ。「とりあえず全員分の点滴を準備して」といわれ、その日1日に必要な点滴の内容が書かれたリストを渡されました。
Aさんは「今日は点滴マシーンの日」と割り切り、28名分の点滴を1人で用意しました。午後からは検査やリハビリへの患者さんの移送でその日の業務は終わりました。
ナースの派遣を必要としている側は、「少しの説明で必要な作業をこなしてくれる人」でなければ意味がありませんので、基本的な看護技術は説明を受けなくてもデキる人が求められるでしょう。
2. 手術室などちょっと特殊な部署への派遣
手術室やカテーテル室など、病棟とはちょっと違う部署への派遣は、経験者が求められます。今回はBさんの体験から。
Bさんの場合
Bさんは同じ病院の手術室へ3ヵ月間、週4日間の契約で派遣されました。
まず初日の午前中はオリエンテーションと、器械や物品の準備をスタッフの人に教わりながら行いました。午後からは早速、外科の直接介助です。
それほど大きな手術ではなく、器械や物品も見慣れたものが多かったので特に問題はなかったようですが、誰かがついてくれたのは1日目の午前中だけ。2日目には緊急手術の直接介助もあったそうですので、すでに1人のスタッフとして数えられていたようです。
3. 健診のお供で遠方へ
これは繁忙期と閑散期があるようですが、場合によっては地方の大きな工場まで、3日間かけて派遣されることもあります。つまり出張ですね。
仕事の内容としては、問診、バイタルサインの測定、計測、採血、医師の診察介助などですので、看護技術がしっかりしていれば特に問題はなさそうです。しかしCさんの経験は少し違いました。
Cさんの場合
Cさんが派遣されたのは、従業員が1,000人を超える大工場。しかもそのうち7割以上がB国の方。飛び交う言葉もB国語。
問診票は日本語で作成されていましたが、予め日本語が堪能なB国の方が、問診票の説明書と書き方見本を作って下さっていたそうですが、どうにも読めないものが多数。
問診する時、計測する時など、どの場面にも通訳としてB国籍の従業員の方がついていてくれましたが、Cさんは「ここはB国なのか?」と、錯覚する場面もあったそうです。
4. ツアーナースとして海外へ
派遣ナース歴2年目のDさんはある時、ある老人会の海外旅行に添乗することになりました。ツアーナースとは、修学旅行に添乗する保健の先生のような役割です。
Dさんの場合
旅行出発当日の朝、Dさんには旅行者の名簿が渡されましたが、そこには
「山田太郎 67歳 糖尿病 薬物治療・食事療法中 毎食毎の血糖測定とインスリン投与、食直前に○○を1錠服用」
のような情報が細かく記載されていました。
確かに、一緒に旅行する方たちの健康管理が主な仕事ですので、ツアーナースにはこの情報は必要です。事前に詳しくまとめて頂けると助かりますが、ない場合は自分でヒアリングする必要もあるかもしれません。
また、海外旅行の場合は、渡航先の医療事情も予め知っておく必要があります。旅行会社のツアーなら添乗員さんがいますが、緊急時にどこにどうやって連絡すれば良いか、医療費の支払いはどうなるのか、渡航先で考えられる緊急事態にはどんなことがあるか、などを予めシュミレーションしておくと良いでしょう。
この時のDさんは「とにかく生水は飲ませないように注意した」そうです。国によって水の成分は少しずつ違いますので、合わない時はすぐに下痢などを起こします。高齢者であればなおさらですので、注意が必要ですね。
5. イベントナース
イベントナースとは、大きなお祭り、野外フェスなどのコンサート(ライブ)会場、プロスポーツの試合など、普段はあまり人がいないところに、一度の多くの人が訪れるイベントがある時に必要とされる派遣ナースです。今回はEさんの経験から。
Eさんの場合
Eさんはあるプロスポーツの試合会場に派遣されました。試合開始から中盤までは特にけが人も病人もなく、医務室の窓から試合を観戦する余裕もありました。
ところが試合が終盤に差し掛かるころ、スタンド席の一角でちょっとしたいざこざが有ったらしく、サポーターの殴り合いに発展。しかもそのチームが負けたことで、周りのサポーターも怒りに任せて参戦。大乱闘になりました。
スタッフや他の観客にとめられたものの、ケガをした十数人が一度に医務室へ。ただでさえ広くはない医務室に大人数が入り込む騒ぎになりました。
Eさんは医師の診察を介助しながら、ケガの重症度を見て治療の順番を決めて並ばせようとしたのですが、ただでさえ血気盛んなことで有名なチームのサポーター。試合も負けたしケンカした相手もすぐそこにいるし、中々言うことを聞きません。Eさんは「初めて患者さんたちを怒鳴りとばした」そうです。
幸い、救急車を呼ぶほどの重症な方はいなかったのですが、全員が治療を終えて医務室を後にしたのは、試合終了後2時間近くたった頃だったそうです。
おわりに
いかがでしょうか?ナースの派遣は増えてきているようですが、派遣先は実にさまざま。経験するエピソードも人それぞれ。
でも共通していえることは「全国的に共通な看護技術」と「初めて会う人でもコミュニケーションが取れる力」が必要だということです。
病院勤務も得ることはたくさんあるのですが、こういった経験もたまには面白いかもしれませんね。