精神科ってどんなところなのでしょうか?
閉鎖的で、なんだかこわい…など、少しネガティブなイメージをしてしまう人が、まだ世間にはいるかもしれませんね。
看護師でも、看護実習の時に、ちょっと怖い思いをしてしまって、その後に精神科で働いたことがない人は精神科に転職することをためらってしまうことでしょう。
しかし、実際に精神科で働いたことのある看護師に聞くと、
「患者さんの自立に向けて、医療従事者と患者さん家族が連携してチームワークを発揮する、ポジティブで開放的な診療科」
といいます。
今回は、そんな精神科看護師のお仕事について詳しく紹介していきます。
そもそも精神科ってどんなところ?
精神科とは
精神科とは、うつ病、統合失調症、薬物の急性中毒、依存症、知的障害、また、そのほかの精神疾患を扱い治療する診療科です。
精神疾患は、身体の病気のように検査をし、すぐにわかるというものではなく、診断に時間がかかります。
例えば、同じ疾患名であっても、その人のバックグラウンドや現在置かれている状況によって症状の現れ方は全く異なります。患者さんそれぞれに対応した治療やケアが必要になります。
精神科病棟の特徴とは
精神科病棟で特徴的なのは、開放病棟と閉鎖病棟があることです。
閉鎖病棟とは
病棟ごとに施錠され、患者さんや面会者が自由な出入りはできません。
閉鎖病棟では、患者さん本人あるいは周囲に危険が及ぶ可能性が高い場合に隔離室、または保護室と呼ばれる個室が使用されます。
開放病棟とは
比較的症状が安定している患者さんが入院し、一般病棟のように患者さんも面会者も自由に出入りができます。
院内を散歩する患者さんなど、身体的に健康な人がいるので、明るくオープンな雰囲気のところも多いようです。
症状が安定すれば、作業療法を受けたり、回復プログラムに参加したり、病室にいるだけではない活動的な入院生活を送ることができます。
次に、精神科で働く看護師はどんな仕事をするのでしょう。
精神科看護師の仕事とは
精神科看護師の主な仕事は以下の3つとなります。
- 患者さんの精神的なサポート
- 薬物療法の看護
- 継続的な自立支援
患者さんの精神的なサポート
患者さんの中には、病気の急性期で拒否が強い、自分の状況がわからず混乱をきたしている、依存性が強いなど、病気によって人格や言動が自身でコントロールできず、患者さん本来の人格が変化している場合があります。
そんな、患者さんの日々の変化を感じ取り、症状や精神状態を把握し、常に病気の悪化がないよう医師と情報共有しながら看護をおこなう必要があります。
薬物療法の看護
精神科の治療では、静脈注射や筋肉注射などを含む薬物療法が基本となります。
これら薬物の服薬指導、服薬管理がうまくいくかどうかで、患者さんの精神状態が左右されるといっても過言ではありません。
そのために入院中の服薬管理はもちろん、ゆくゆくは患者さん自身で服薬管理ができるように指導をしていくことが大切です。
継続的な自立支援
精神疾患に限らず、どんな疾患でも『退院』イコール『完治』ではありません。
特に、うつ病や統合失調症などは再発率が高く、患者さんが勝手に服薬を中断してしまうとさらに再発率があがることもあります。
社会復帰、再発防止には、医師、作業療法士などの医療従事者はもちろん、患者さん家族とも連携し、チーム全体での継続的な自立支援が不可欠です。
退院してからもチームでカンファレンスをおこない、患者さん・その家族をサポートしていきます。
次に、精神科で働く看護師の特徴を見ていきましょう。
精神科で働く看護師の特徴
- 豊富な知識と経験がある
- チームワーク、カンファレンスを重視する看護師が多い
- 男性看護師が活躍している
豊富な知識と経験がある
精神科では、看護技術を用いて処置をおこなうイメージってありませんよね。
しかし、精神科は、いざという時に看護技術の知識と経験が無ければ動けません。
例えば症状によって薬物を大量摂取してしまったとします。
そのような緊急時には、胃を洗浄したり、尿道留置カテーテルを挿入したり、また意識がない患者さんには気管挿管したり、血管確保をしたりと、一般病棟のように看護技術のフルコースをおこないます。
こういった理由で、看護師としての豊富な知識と経験がある看護師が多く働いています。
チームワーク、カンファレンスを重視している
精神科病棟は、医師や看護師、作業療法士、臨床心理士、薬剤師、ケアマネージャー、時には家族も含めて患者さんの治療方針について話し合うことが多い職場です。
先程も話しましたが、チーム全員で統一した考えを持ち、一貫した態度で患者さんに接することで、患者さんの迷いや混乱も少なくなります。
そのためチームでサポートする重要性を大切に感じている看護師が多いのです。
男性看護師が活躍している
精神科では他の診療科と比べて多くの男性看護師さんが活躍しています。
精神科では、患者さんの精神状態が急変することがあります。
このような場合、患者さんの安全を確保するため、他の患者さんへの影響を最小限に抑えるために、看護師が患者さんに対して『隔離』『鎮静』という手段を取ることがあります。
しかし患者さんが暴力行為に出てしまうと、女性の看護師では、その行為を止められないことがあります。そんな時は、やはり男性の看護師が頼りになります。
特に、重症患者さんや救急患者さんが多い病院ほど、男性看護師の比率が高くなるようです。
それでは、精神科看護師に求められるスキルとは何か考えてみましょう。
精神科看護師に求められるスキルとは?
- 薬物に関する知識
- コミュニケーション能力
- カウンセリングの知識
薬物療法の知識
精神科では、一人の患者さんが、複数の薬を服用していることがあります。
そのため、患者さんが服用している薬物にはどのような副作用があるのか、また、その薬物が一番効果を発揮する時間を知るなど、薬物に関する知識が必要です。
コミュニケーション能力
患者さんの治療が長期化することもあるため、患者さんとの信頼関係は築きやすい環境です。
しかし、看護師と患者さんとの関係性によって病状の回復が左右される場合があり、患者さん一人一人の症状やペースに合わせてコミュニケーションを図ることが重要なります。
また、精神科には、スタッフに対して妄想を抱く患者さんもいますので、トラブルが生じないよう、適度な距離を保ちつつ、冷静に物事を考えながら、患者さんの訴えを分析する能力も必要になります。
カウンセリングの知識
ほとんどの場合、カウンセリングをおこなうのは、医師や臨床心理士ですが、常に患者さんのケアをする看護師も、カウンセリングの手法や分析についての知識を持つ必要があります。
患者さんとの日々のコミュニケーションの中で、患者さんから悩みを打ち明けられることもあります。そんな時もカウンセリングのスキルが役立つでしょう。
では次に、精神科で働くメリット・デメリットを考えてみましょう。
精神科で働くメリット
- 比較的残業が少なく、落ち着いて働くことができる
- 一般病棟とは異なった個別性に合わせた看護が実施できる
- 手当次第で給料が高くなることがある
比較的残業が少なく、落ち着いて働くことができる
精神科では、急変や医療行為などが少なく、また、長期患者さんが多いので、一般病棟のようにバタバタするということが少ないです。
担当の患者さんの症状に変化がなければ情報収集に時間がかからず、日々のカルテ整理や記録に時間を取られることも少ないため残業も少ないでしょう。
一般病棟とは異なった個別性に合わせた看護が実施できる
患者さんの症状が安定してくると、職員と患者さんがレクリエーションなどを楽しんだり、日々の回復プログラムで屋外作業をおこなったりすることもあります。
病棟とは異なった患者さんの様子を観察することができると同時に、患者さんの別の一面を見ながら個別性に合わせた看護を実施することも可能です。
手当次第で給料が高くなることがある
一般的に同じ病院であれば、精神科看護師だろうと、ほかの病棟の看護師だろうと、基本給の差はありません。
しかし、病院によっては、精神科の看護師には危険手当が支給され、給料が高めになることがあるようです。
また、精神科認定看護師、精神看護専門看護師の資格を持っている場合には資格手当も支給されます。
精神科で働くデメリット
- 患者さんと向き合うことが困難と感じることがある
- 一般的な看護技術が習得しづらい
患者さんと向き合うことが困難と感じることがある
精神科の入院患者さんの中には、看護師に対して暴力的な人、暴言を吐く人、激しい妄想からさまざまな主張をしてくる人、依存性が強い人…など、さまざまな症状の方がいます。
また回復の兆しを見せていたのに、少しのきっかけによって症状が変化することもあります。
そのような疾患だから、ということはわかっていても、患者さんの状態に振り回されることを困難と感じてしまうことがあります。
一般的な看護技術が習得しづらい
精神科は、医療行為と呼べるものが非常に少ないため、新たに一般的な看護技術を新たに身につけることが難しいといえます。
また、新たな看護技術を身につけスキルアップしたいと考える看護師にとっては物足りなさを感じる場合があるでしょう。
メリット・デメリットは人により感じ方はさまざまですが、精神科で働く看護師はどう感じているのでしょうか。実際に精神科の現場で働いている看護師に伺ってみました。
精神科看護師の体験談
Sさん(女性)30代
新卒で就職してからずっと同じ病院に勤務しています。精神科はとても奥が深く、新しい患者さんが来るたびに、新しい知識を得られます。実態が見えない心の病なので、看護や対応に関して「これで本当にいいのかな」と思うこともありますが、それが常に自分で勉強しようというモチベーションにつながっています。
Nさん(女性)20代
就職をしてみて初めて、自分の精神科に対するイメージと実際のイメージが大きくかけ離れていることに気づきました。今勤務している病院は、とても明るく開放的です。また精神科患者さんの社会復帰に向け回復プログラムも充実しており、患者さんの個別性に合わせた看護の重要性を日々学んでいます。
Kさん(男性)30代
救急の患者さんが入院してきたときなどは、安全を確保するために隔離するので、男性の活躍の場が多いなと感じています。実際に、精神科病院の救急部門には男性看護師が多いのです。反対に落ち着いているときには、ひたすら一人の患者さんに向き合い、話をして勤務が終了という時もあります。男性看護師が働きやすく、またやりがいを見出せる職場です。
それでは、ここまでの内容をふまえ、精神科看護師にはどのような人が向いているのでしょうか。
精神科はどんな人に向いているか?
- 患者さんにじっくり関わりたい人
- 精神疾患についてもっと深く学びたい人
- 精神科の専門的な資格を取得したい人
患者さんにじっくり関わりたい人
一般病棟では医師の指示のもとに投薬や処置をおこなうことが多く、そのような業務に1日が終われ、仕事が終わってしまうということも少なくません。
しかし、精神科では一人一人の患者さんに向き合い、じっくりと話をします。時には、患者さんと話をして1日の業務が終わるといったこともあるのです。
そのために患者さんにじっくり関わりたいという人には向いています。
精神疾患についてもっと深く学びたい人
精神科の場合はその疾患の成り立ちや症状、経過が複雑ですので、じっくりと患者さんとのコミュニケーションを図り、根底にあるものを理解していかなければ、実際に改善方向に向かわないこともあります。
検査で病変がわかる、身体的な病気とは異なった、精神疾患の奥深さに興味がある人には向いているでしょう。
精神科の専門的な資格を取得したい人
精神科看護の奥深さから臨床心理士や精神保健福祉士の資格を目指す看護師もいます。
また、精神科認定看護師、精神看護専門看護師の資格もありますので、いずれは精神科の専門知識を身につけたいという意識の高い人に向いています。
では実際に、精神科看護師になるためには、どうしたらよいのでしょう。
精神科看護師に転職するためのアドバイス
ストレス社会といわれる現代では、精神科患者さんは増加傾向にあります。
厚生労働省の発表によると、平成14年には250万人だった精神科患者数が、平成23年は320万人まで増加している現状です。
それにも関わらず看護師不足は深刻のため、どこの病院でも精神科看護師の需要は高いでしょう。
精神科看護師で転職を考えた場合、求人があれば、総合病院、精神科専門病院、クリニックなどで就職が可能です。
病院なのかクリニックなのか、急性期なのか慢性期なのか、開放病棟なのか閉鎖病棟なのか、によって患者さんの症状や仕事内容が変わります。
転職してから「イメージと何か違う…」とならないためにも、まずは精神科のどのような分野に『自分は興味があるのか』『どのように働きたいのか』を確認することが必要です。
また、精神科は比較的残業が少ないと言われますが、病院によって状況はさまざまですので、残業に関してはチェックが必要です。
精神科看護師は専門性が高いので、前職で精神科勤務の経歴があれば、転職先は見つかりやすいはずです。
もちろん、ブランクや未経験者向けの求人もあるので、転職を考える人は自分にあった職場を探してみましょう。
最後に、実際の求人を見てみましょう。
精神科看護師 実際の求人
精神科専門病院 日勤外来の求人(東京都)
こちらは看護roo!に掲載されている東京都にある精神科専門病院の『日勤外来』での求人情報です(2016年3月)。
求人情報によると、残業がほとんどなく、子育て中の看護師がたくさん働いているようです。また、有給消化率も90%を超えているところは魅力的ですね。
参照:看護roo! 求人情報
休日多めの精神科病院の求人(東京都)
こちらはに掲載されている東京都にある精神科病院の求人です(2017年10月現在)。
年間休日は126日あります。2017年に新病棟を新築・増床しています。
参照:レバウェル看護
急性期から慢性期、在宅までおこなう精神科病院の求人(東京都)
こちらはマイナビ看護師に掲載されている東京都にある、急性期から慢性期、在宅まで幅広医療をおこなう精神科病院の求人情報です(2016年3月)。
求人情報をよく読んでみると、プリセプターシップで教育制度が整い、精神科未経験の看護師の入職実績が多いとのことです。安心して働けそうですね。
参照:マイナビ看護師
おわりに
精神疾患は、精神機能が乱れたり、損なわれたりすることで発症しますが、精神科患者さんだからこそ、本来の人間の姿を見ることができるという人もいます。
精神科で働く中で、患者さんの裏表のない素の人間性、精神科疾患の奥深さ、精神科看護の多様さ などに引き付けられ、精神科看護へのやりがいを見出す看護師も多くいます。
精神科看護師に興味のある方は、患者さんに寄り添う看護のスペシャリストを目指してみませんか。