目的
- 術後イレウスの基礎知識について理解を深め、適切なケアを行う
疾患の概要
- イレウスとは腸管麻痺などにより腸の蠕動運動が低下した状態
- 大別すると、機械的イレウス(物理的に腸の内腔が開塞されて起こる)と、機能的イレウス(血管の障害や分布する神経により腸の内容が停滞する)がある
- イレウスは特に腸管に操作を加えた場合(開腹手術後など)に起こりやすい
- 麻酔によって一時的に止められた腸管蠕動は通常の場合、麻酔の覚醒とともに回復するが、開腹術の場合、術中の腸管への機械的刺激により術後の蠕動回復が遅延することがある
- 一般的に生理的腸管麻痺の状態になっても2~3日程度で回復するが、ある程度の時間を経過しても回復の兆しが見られない場合は術後イレウスを疑う
治療
手術療法
- 保存的治療を行っても症状が改善しない場合や、腹膜炎を合併した場合に適応となる
保存的治療
- 感染症の併発に備え、抗生剤の投与を行う
- 大量の細胞外液が消化管に漏出し、電解質異常や脱水を起こす危険性があるため、輸液投与などで補正を行う
- 腸の内容物をイレウス管からの吸引により減圧する
- 高圧酸素療法による加圧によって貯留したガスの容積を減少させることで腸間膜の血流を正常化させる
観察項目
- 手術範囲や手術に伴う侵襲の程度、および麻酔時間
- ドレーンや胃管からの排出液の色・量・性状
- バイタルサイン
- 創部、腹部の状態
- 痛みの有無と部位、程度
- 悪心・嘔吐など患者の訴えと表情
- 蠕動運動の聴取
- 腹部 X線所見
アセスメント
イレウスの原因・症状
いずれの場合も共通の症状としては排便・排ガスの停止、嘔吐、腹部膨満、脱水がある
機械的イレウス
- 閉塞性(単純性):大部分が術後の癒着性イレウスであり、腸管の閉塞が起こる機械的イレウスのうち、腸間膜血行の停止が見られないもの
- 原因:先天性、術後の癒着、炎症や腫瘍
- 症状
- 悪心
- 間欠的に起こる腹痛
- 蠕動運動の異常(不穏あるいは亢進)
- 腹部聴診において金属音の聴取
- 多数のニボー像、X線上腸管ガス
- 絞扼性(複雑性):機械的イレウスの中でも、腸間膜血行の停止によって腸管壊死が起こったもので、急激に悪化することが多く、緊急手術を要する
- 原因:腸管閉塞後に腸間膜の血行が停止し、腸管壊死が起こる
- 症状
- 腹痛の持続、圧痛、腹部腫瘤
- 急激な嘔吐・筋性防御
- 血圧の低下、白血球数上昇
機能的イレウス
- 麻痺性:腸管に器質的な変化は認められず、腸管壁の神経筋が何らかの影響を受けて腸管運動麻痺が起こった状態
- 原因:腸管壁にある筋や神経が影響を受けて、腸管運動が麻痺したことに起因する
- 症状
- 腹痛、腹部膨満
- 腸蠕動音の低下、排便の停止
- 嘔吐
- X線上腸管ガス多数
- 痙攣性:腸管の部分に器質的な疾患は認められず、腸管の一部に痙攣が起こったもの
- 原因:ヒステリーや鉛中毒による
- 症状
- ゆるやかに始まり、周期的に訪れる嘔吐や腹痛
- 腸蠕動音の低下
看護のポイント
ドレナージの管理
- 術後の腹腔内ドレーンや胃管の性状や量を観察し、閉塞や屈曲予防を行う
- 必要時は定期的にミルキングを施行する
- イレウス管挿入時は、自己抜去しないようにしっかりと固定する
腸蠕動を促進するための援助
- 早期離床・ADLの向上をすすめる
- 排便習慣を正常に整える