目的
- 術後疼痛の基礎知識について理解を深める
概要
- 疼痛は主観的なものであり、目には見えないが、痛みの感覚は身体的な要因だけで決定されるものではない
- 患者の自覚症状がある場合はすべて「疼痛」と捉える必要がある
- 特に術後疼痛は、その後の経過を左右する要因にもなる
- 回復の促進と術後合併症予防のために、適切なコントロールをすることが重要
観察項目
- 疼痛の部位、強さ、程度、持続時間、出現頻度
- 創部の状態
- 各種ルート類やドレーンの留置状況
- 感染徴候(発熱、炎症所見、創部の腫脹・発赤・疼痛・熱感、創からの浸出液をはじめ、ドレーンからの排液の性状や量の変化など)
- 鎮痛薬の使用頻度・効果の有無と持続時間
- 排便の排ガスの有無、便の量、性状、回数
- 痛みの出現状況(空腹時、食後、夜間など)
- 疼痛が軽減する体位の有無
- 表情・言動
- 不眠の有無・睡眠状況
アセスメント
- 痛みの原因は、痛みの部位・程度・持続時間・放散痛の有無と要因を把握することで、ある程度は推定が可能である
創部の状態
- 創部の位置(正中創・開胸創・横切開創 など)や状態、開腹の程度などによって、痛みの程度は異なる
- 腹腔鏡手術の場合:手術侵襲は少なく傷も小さいため、創痛は比較的少ない
- 開腹正中創の場合:腹部に創があるため、咳嗽時や起床時に痛みが強くなりやすい
- 横切開創の場合:肋間神経痛が出現しやすい
- 術後の創痛は術後2~6時間が一番強く、術後1~2日程度で痛みが和らぐと言われている
- 消化器外科手術の開腹手術の場合、体動による筋緊張などから強い痛みが出現しやすい
ドレーン類
- 術後はドレーンが留置されることが多く、刺入部表面の皮膚、挿入されている先端部などに痛みを感じやすい
縫合不全・創感染
- 縫合不全は術後5~7日日以降、創感染は術後3~5日日以降に起こることが多い
- 創部の腫脹、疼痛、熱感、発赤、浸出液やドレーンの性状や排液量などに変化が見られる
- 血液検査により、CRP上昇がみられる(感染の兆候)
褥瘡
- 術後創痛が強く臥床状態が続くこと、一時的に栄養状態が悪化することなどにより、褥瘡の危険性が高くなる
- 褥瘡の発生によって痛みが更に強くなる悪循環が生じることがある
痛みの全身への影響
循環器
- 痛みにより長期臥床が長引く
- 深部静脈血栓が起こりやすくなる
- 交感神経が緊張する
- 血圧上昇や頻脈、不整脈、高血圧、心筋梗塞などのリスクが高くなる
呼吸器
- 痛みに対する恐怖感から咳や深呼吸の抑制が起こる
- 肺炎や無気肺を引き起こしやすくなる
- 疼痛によって呼吸運動が抑制される
- 痛みによる腹部の筋緊張、換気量・横隔膜の機能低下が起こるリスクがある
消化器
- 腸蠕動が抑制されるとイレウスの原因となる
内分泌
- 交感神経が緊張する
- 異化ホルモンやカテコラミンの遊離が促進され、酸素消費量の増加や代謝の亢進をもたらす
精神面
- 疼痛に伴う恐怖心や不安感
- 不眠の原因にもなり、昼夜逆転傾向が生じる
- 術後せん妄の発生率が高くなる
看護のポイント
- 痛みに対してのアセスメントを経時的に施行する
- 疼痛に対しての理解と効果的な疼痛緩和のためのケアが非常に重要
- 精神的なケアだけではなく、適切な鎮痛剤の投与、安楽な体位や姿勢保持、罨法の施行など、患者の状態に合わせた適切なケアを行う