目的
- 中核症状と行動・心理症状について理解を深め、適切なケアを行う
認知症の概要
- 認知症の代表的な症状として、中核症状と行動・心理症状の2つに大別される
- 中核症状は、記憶力や判断能力の障害、認知機能の低下などが挙げられる
- 中核症状は程度の差はあるものの、ほとんどの認知症患者にみられる
- 行動・心理症状は、症状のあらわれ方が人によって大きく違うのが特徴
- 行動・心理症状に関しては本人の性格や生活環境、身体状況、介護側との人間関係の構築など、さまざまな要因が関係するため
- 中核症状は、脳障害(脳細胞の障害)の本質的なところに起因する症状だが、対照的に、行動・心理症状は「中核症状を取り巻いている」という意味で、「周辺症状」「随伴症状」とよばれることもある
- 行動・心理症状は、人によっては中核症状よりもさまざまな危険を伴うため、内服治療や適切なケアで、可能な限り抑制することが大切である
中核症状
記憶障害
- 少し前のことを忘れる
- 新しいことを覚えられなかったり、何度も同じことを言う
- 特に最近の記憶を保つことができなくなる
出来事を忘れる
- 体験や経験を丸ごと記憶できないため、食べたこと自体を全て忘れてしまう
- 進行すると、人や場所がわからなくなる
- 大切にしていた過去の経験や体験、家族の顔も忘れていく
見当識障害
- 日にちや時間、今いる場所を把握する力が失われるため迷子になりやくなる
失語
- 聴き取りや読み取りによる言語の理解ができない
- 言葉が出てこなくなる非流暢性失語がみられる
失行
- 観念運動失行:支持された動作ができない
- 高次機能障害:自分で服を着ることができない、着位失行など
失認
- 知っているはず・使っているはずのものが認識できなくなる
判断力障害
- 物事を順序立てて考え、決定することができなくなる
- 考えの整理ができないため、突発的なことに対応できない
実行機能障害
- 物事の手順が理解できず、計画を立てることができなくなる
- 趣味や家事での失敗が増え、いずれ断念することになる
性格の変化
- 急に怒りっぽくなるなどの性格変化が生じる
行動・心理症状
徘徊
- 目的もなく今いる場所から離れ、さまざまな場所を歩き回る
- 迷子になったり、行き先を思い出せなくなったりする
- 過去と現在を混同する
- 夕方や夜間に頻発しやすい
暴言・暴力
- 他者に暴言をはいたり、暴力を振るう
食行動異常
- 異物を食べたり、拒食や過食が見られる
- 甘いものや、同じものばかりを食べる過食がみられることもある
- 食べ物を丸ごと飲み込んでむせることがある
失禁・不潔行為
- 尿意や便意の自覚がない
- 尿意や便意を他者に伝えることができない
- トイレの場所がわからない、トイレの使用方法がわからない
- 汚染した下着をタンスの中などにしまい込む
- 排泄した便を場所に関係なく塗り付ける弄便をする
睡眠障害
- 昼夜の区別がつきにくくなる
- 日中は傾眠がちで、夜間に活動を始めることが多い(昼夜逆転)
介護への抵抗
- 整容、寝衣交換、入浴、リハビリなどを拒否することがある
- 何日も同じ服を着ていたり、散髪をせずに外見がだらしなくなる場合も多い
無為・無反応
- 何ごとにも消極的で、以前から興味があったことに対しても関心を示さなくなる
- 他者が声かけしても、反応せず自分の世界に閉じこもる
- 多数の人間と関わり、活動性を取り戻す必要がある
妄想
- 現実には存在していないものを実際にあったと信じ込む
- 物盗られ妄想(第3者が自分の財布を盗んだという妄想)
- 嫉妬妄想(配偶者が浮気をしていると信じ込む)
- 被害妄想(周囲が自分のことを悪く言っていると思いこむ)などがある
幻覚
- あるはずのないものが見えたり、その場にいない人の声が聞こえたりする
不安・焦燥
- 自分が普段と違うことを漠然とどこかで感じていることが多いため、常に漠然とした不安や焦燥感に駆られている
- 多動で落ち着きがなくなることが多い
抑うつ
- 気持ちが落ち込み、物事に関心を示さなないなど、うつ病に似た症状
- 無表情になることが多いのが特徴
- 自分の部屋から出ず、人と接触したがらない
認知症に対するケアのポイント
- 中核症状は誰にでもみられる症状だが、その進行度合いは人によって異なるため、症状の進行度合いを丁寧に観察して把握する
- 行動・心理症状は、人によってあらわれ方が違うことを理解し、症状の裏にある心理状態や、症状があらわれる要因を読みとる必要がある
- 適切な内服治療やケアで、行動・心理症状の進行を抑えることが可能となれば、穏やかな生活を送ることも可能であることが多い