肺炎の基礎 22 人工呼吸器関連性肺炎(VAP)

肺炎の基礎 22 人工呼吸器関連性肺炎(VAP)【いまさら聞けない看護技術】
公開日:2016年2月2日
最終更新日:2018年09月25日
(変更日:2018年11月15日) ※

目的

  • 人工呼吸器関連性肺炎(VAP)について理解を深め、適切なケアを行う

人工呼吸器関連性肺炎の定義

  • 期間挿管下において、人工呼吸器装着中の患者に発症する
  • 挿管後48時間以降に新たな肺炎の発症が認められる
日本のICUでは、1,000入院患者あたり数人(調査データによっては10人以上)発生するといわれており、ICU内での院内感染例としてもっとも多いという見解もある

人工呼吸器関連性肺炎の病態生理

  • VAPを引き起こす要因には以下のものがある

病原菌の定着

  • 口腔・咽頭内の病原菌が、気管挿管チューブを伝って気管内に定着する
  • 経鼻挿管により、鼻腔内の病原菌が気管まで到達する
  • カフ上部の分泌物(痰など)の貯留
  • チューブの汚染に伴う生物膜(バイオフィルム)の形成
  • 回路の汚染(気管吸引、回路交換、加温加湿水、結露)

消化管液による影響

  • 胃管チューブを通じて、胃内の病原菌が気管内に定着する
    • 消化管液の逆流
    • 胃液のアルカリ化による細菌繁殖
消化管潰瘍予防目的での薬剤の使用や、早期からの経腸栄養により、胃酸がアルカリ化し、消化管内で病原菌が繁殖する

機能低下

  • 喀痰排出能の低下
  • 呼吸機能の低下

検査・診断・治療

検査

  • 血液検査:白血球数の増加、CRPの上昇
  • 痰:抗酸菌、一般細菌(培養・塗抹)
  • 血液培養
  • 尿中抗原(肺炎菌、レジオネラなど)
  • 胸部レントゲン、CT検査にて新しい陰影の出現

診断

  • レントゲン像にて浸潤陰影
  • 下気道からの細菌検出
  • 肺酸素化能の低下
  • 発熱
  • 膿性気道分泌物
  • 白血球数増加 など
呼吸器感染症の中でもVAPとは比較的新しい概念であり、明確な診断規準が確立していない部分もあるため、総合的な判断が必要とされている

治療

  • 抗菌薬の適切な投与
VAPはHAPの1つであり、抗菌薬の長期投与による耐性菌の問題もあるため、通常は7日間程度の投与で患者が回復したら、終了となることが多い(緑膿菌やMRSAが原因である場合は、14日間程度の投与となることもある
  • 一般的な全身療法
    • 輸液
    • 栄養管理
    • 体位ドレナージ
    • 酸素吸入
    • 口腔ケア など

予防策

口腔・咽頭・気道内の汚染(病原菌定着)

  • 定期的な口腔ケア、適正な抗菌薬の使用

経鼻挿管による副鼻腔炎の合併

  • 経口挿管あるいは胃管に切り替える

カフ上部の分泌物(痰など)の貯留

  • カフ圧を適正に保つ(20~30cmH2O)
  • カフ上部吸引付挿管チューブの使用
  • 手指衛生の遵守

回路の汚染(気管吸引、回路交換、加温加湿水、結露)

  • 回路内結露の定期的除去
  • 回路交換は頻回にはせず、汚染時に交換
  • 人工鼻を用いた加湿
  • 閉鎖式吸引システムの活用

消化管液による影響

  • 消化管液の逆流
    • 逆流を防ぐ体位(半坐位、側坐位)の保持
    • 経胃栄養ではなく、経腸栄養を選択し、胃内残渣容量の増大を回避
  • 胃液のアルカリ化による細菌繁殖
    • 抗胃酸薬投与を可能な限り控える

喀痰排出能の低下

  • 過度の鎮静を避ける

アセスメント

  • 人工呼吸器関連性肺炎とは何かを理解しているか
  • 予防方法は何かを理解しているか
  • 治療方針について理解しているか
VAPは”挿管による人工呼吸器装着患者”に対して起こる感染症であるため、”抜管”も治療方針の1つとなることから、人工呼吸器離脱(抜管)について、毎日検討することもある
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