目的
病態を理解し、異常の早期発見・対処に努め、合併症を予防する
疾患の概要
小脳の構造・機能
- 小脳は、小脳テントの下で脳幹の背側に位置している
- 筋緊張、身体の平衡、協調運動に関与している
- 自転車の乗り方や泳ぎ方など「体で覚える」タイプの運動の記憶・学習を司る
発症リスク
- 基本的には脳梗塞の危険因子(高血圧、糖尿病、脂質異常症、喫煙、大量飲酒)を有する人、心疾患(非弁膜症性心房細動など)を有する人が発症しやすい
- 先天的に細い椎骨動脈において生じやすい疾患であり、その他、外傷に起因して血管が詰まることでも発生する
症状
- 突然の眩暈、悪心・嘔吐で発症するのが特徴的
- 頭痛
- 小脳失調症状 : 回転性のめまい、歩行困難(体幹失調、酩酊様歩行)、手先がスムーズに動かない、測定障害(物をうまく掴めない)、企画震戦(物を掴むときに震える)、構音障害(途切れる話し方)、眼振など
- 橋、延髄、中脳といった脳幹の症状を伴う意識障害や呼吸抑制
検査から分かること
- CT、MRIにより梗塞病変の検出(小脳出血との鑑別)と、脳室拡大・脳幹圧迫所見の有無を検討するが、梗塞巣の検出には 骨のアーチフアクトが少ないMRIが特に有用である
- CTでは、正常または低吸収域を認める
- MRI拡散強調像で高信号域、T1強調像で等信号域から低信号域、T2強調像やFLAIR像で高信号域を認める
- 他の眩暈をきたす疾患(良性発作性頭位眩暈症、 前庭神経炎など)との鑑別が重要
治療
全身管理、合併症対策、梗塞巣に対する治療
- 急性期:血栓溶解療法、脳保護療法、抗血小板療法、抗脳浮腫療法など
- 慢性期:危険因子の管理、抗血小板療法、外科的治療など
- 小脳梗塞においては回復も早いことから見通しも良く、程度にもよるが後遺症を残存させない傾向にある
- 意識が清明、CTで水頭症や脳幹の圧迫なし:保存的治療(安静、血圧管理・補液、脳浮腫対策、脳保護薬や抗凝固薬・抗血小板薬の投与)
- 中等度の意識障害あり、CTで水頭症あり:脳室ドレナージ
- 重度の意識障害あり、CTで脳幹部圧迫あり:開頭外減圧術
観察項目
- 意識レベルやバイタルサインの変動、小脳失調症状や眼症状の有無
- 脳浮腫による各症状の有無
- 脳幹圧迫や脳ヘルニア症状 : 意識障害や瞳孔異常、呼吸抑制、麻痺の出現
- 第4脳室閉塞による水頭症の症状:麻痺、歩行困難などの運動障害、排泄障害
- 脳梗塞の危険因子の把握(生活習慣、既往歴、検査所見など)、水分出納 など
アセスメント
- 急性期では梗塞による浮腫が起きると、付近の脳幹を圧迫し呼吸抑制を起こす危険性があるため、呼吸や循環動態に注意し、異常の早期発見・対処に努めていたか
- 症状や画像から、今後起こりうる合併症を予測し予防に努めたか
- 患者は眼症状があるため、移動時は閉眼するなどの配慮で、症状の緩和に努めたか
- 小脳失調症状による、ふらつきからの転倒リスク対策を行ったか
合併症予防
- 脳浮腫による脳幹圧迫や脳ヘルニア、第4脳室閉塞による水頭症を起こす危険性があるため、症状の変化を見逃さず早期発見に努める
- 既往に大きな疾患があるなどの重症な例では、肺炎、尿路感染、消化管出血、心血管系合併症(虚血性心疾患・心不全など)、深部静脈血栓症、肺塞栓症などの合併症に注意した上での全身管理が重要
注意点
- 脳梗塞急性期では、脳血流自動調節が障害されているため、頭部拳上や降圧による脳血流の悪化を避けるよう注意する
- 発症より時間が経過してからの血栓溶解療法は、出血性梗塞(梗塞巣の中に点状出血や血腫を形成するもの)を引き起こすため、禁忌となっている