乳房温存手術のポイント

目的

• 手術の流れを理解し、適切な器械操作および手術介助ができる
• 手術の経過を把握し、緊急の場合に備えることができる

手術の概要

• 乳房切除術に対し、皮膚や乳頭・乳輪を温存し、腫瘍とその周辺組織だけを切除する
• 癌の治療と整容性の保持を目的としている
• 遠隔転移がない乳がんが適応だが、「乳管内進展が広範ではないこと」「多発ではなく、患者が希望し、腫瘍径が３cm以下であること」が条件
• 円状部分切除や扇状切除・腫瘍切除などの術式があるが、円状部分切除が一般的である
• 腫瘍から2cm程度の周辺組織（間質浸潤部と乳管内進展）を含めて乳がんを切除する
• 術中にセンチネルリンパ節生検を行い、転移があれば、腋窩リンパ節郭清を行う
• 乳房温存手術と乳房切除術では長期的な成績は変わらないことが明らかになっている
• 再発のリスクを最小限にするため、残存乳房に放射線療法が行われるのが原則

術前評価と患者の特徴

術前評価

• 触診・エコー・マンモグラフィー・乳腺MRI・細胞診
• 術前評価として、主に以下の検査を行う
  • 血液検査:感染症の確認、肝機能・腎機能・凝固能・耐糖能・貧血や栄養状態の評価を行い、必要な場合は輸血や栄養状態の改善を図る
  • CTスキャン:多臓器への浸潤、遠隔転移、リンパ節転移について評価する
  • その他:呼吸機能検査、胸腹部X線検査、負荷心電図など

患者の特徴

• 女性（男性はまれである）
• 癌への恐怖や、ボディーイメージの変化に伴う不安・ストレスを抱えていることが多い

手術の流れ

1. 患者入室後、モニター症着
2. 側臥位となり、硬膜外麻酔を施行する
3. 仰臥位に体位固定し、全身麻酔を開始
4. 膀胱留置ドレーン挿入、直腸温計挿入
5. 体位固定：患側上肢を拳上した状態で固定することが多い
6. 消毒、ドレーピング
7. センチネルリンパ節生検のための色素注入
   ※インドシアニングリーンを使用することが多い
8. 乳腺切除ラインのマーキング
   ※ピオクタニン・皮膚ペンを使用することが多い
9. センチネルリンパ節生検のための皮切
   ※小さい創で深い術野になるため各種筋鉤など必要な物品を準備しておく
10. センチネルリンパ節の提出（迅速診断）
11. 乳房部分切除の皮切
12. 乳腺切離ラインを十分超えるように皮下の剥離
13. マーキングに沿って乳腺を切除
    ※電気メスを使用する場合と病理的検索のためにメスを使用することがある
14. 乳腺組織の縫合による形成
15. 皮膚の埋没縫合腋窩リンパ節郭清を実施する場合
16. 深胸筋膜の切離
17. 下胸筋神経と伴行する動静脈の剥離・露出
18. 腋窩静脈の剥離・露出
19. 広背筋前縁の露出
20. 外側の腋窩リンパ節郭清ラインの決定
21. 外側胸静脈の切離
22. レベルⅡの郭清
23. 長胸神経の露出と温存
24. 胸背神経と胸背動静脈の露出と温存
25. ガーゼカウント、器械カウントを行う
    万が一、ガーゼ・器械・針・ドレーンの切れ端など、一つでもカウントが合わない場合は術者へ報告し、カウントが合うまで検索を行う
26. ドレーン留置
    ※ドレーンの留置本数およびドレーンの先端部位を術者へ確認し、病室看護師へ申し送る
27. 閉創
    ※トータルでの出血量をカウントし、麻酔科医・術者へ報告する
28. 閉創後、ドレッシング
29. 麻酔覚醒
30. 退室

看護のポイント

麻酔

• 全身麻酔（気管挿管か咽頭マスク）
• 硬膜外麻酔
  ※抗凝固薬内服の既往なあるなど、出血のリスクが高い患者の場合は、状況により判断される
  ※胸骨傍リンパ節郭清実施後など、術後の疼痛管理の目的で行う場合がある

体位

• 仰臥位
  ※患側の上肢は、９０度外転して手台にのせる場合とL字型麻酔用スクリーンに吊って顔の上に挙上する場合（神経麻痺に注意必要）がある
  ※患側の上肢を指先まで消毒し術野に出し、術中に動かすこともある

トラブルへの対応（器械出し看護師）

• 電気メスで皮下組織の剥離を行う際、皮膚の熱傷に注意する

トラブルへの対応（外回り看護師）

• センチネルリンパ節生検の際、術野が深く狭いため、無影灯の光が入っているか確認し調整する

術式変更の準備

• 乳房温存療法にて断端が陽性の場合、乳腺の追加切除や乳房切除術への変更が行われる
• センチネルリンパ節生検にて転移があれば、腋窩リンパ節郭清が行われる

術後のドレーン管理

• 移動時にドレーンなどの付属物が抜去されないよう注意する
• 陰圧により吸引するドレーンの場合は、きちんと圧がかかっているか確認する

病室への申し送り事項

• 術式、トータルでの出血量、ドレーンの本数や留意部位など
• 麻酔方法、現在確保されている輸液ルートの本数および部位など
• 術中に使用した輸血や血液製剤など
• 麻酔中に起こったバイタルサインの変化や、それに対して使用した薬剤の量や最終使用時刻など
• 体位固定（仰臥位）による影響として、後頭部・仙骨部・踵部などの発赤、上腕部の過伸展などのトラブルの有無