看護師の仕事は体力的にも精神的にも負担が大きい仕事。それゆえに身体だけでなく心の不調をきたす人も多いのが現実です。ここでは、自分自身が壊れてしまう前に、仕事において心のバランスを保つためにどうしたらいいのかを考えてみましょう。
心のバランスを崩しやすいのはどんな人?
まずは身近にありそうなエピソードから
とある総合病院に勤める、看護師経験8年目のAさんは、ある時手術室へ異動となりました。それまでは小児科病棟3年、呼吸器内科病棟5年の経験がありましたが、手術室なんて学生のころに数日間見学しただけ。自分とは縁遠い世界だと思っていました。
手術室での勤務が始まり、最初は年下の同僚と一緒にいろいろなことを教わり、手術の見学から、やがて手術室スタッフと一緒に、直接介助、間接介助につくようになりました。しかしAさんは手術が怖くて仕方ありません。手洗いをするだけでもかなりのストレスです。この病院で手術室を使用する科は13科あり、覚えなくてはいけないことも膨大です。
でも何よりAさんにとってストレッサーとなったのは「病棟勤務の経験が何の役にも立たない」ということでした。本当はそんなことも無いのですが、ただあまりに「新しく覚えること」が多すぎて、Aさんにとっての「過去の経験」が吹っ飛んでしまったんですね。
一緒に入った新人はもっと色んな手術についているのに、自分はいつまでも外科手術から次に進めない…そんなことも彼女を苦しめた要因でした。
異動してきてから半年が経つ頃には、Aさんからは笑顔が消え、休憩時間も誰とも口をきかなくなり、とうとう無断欠勤をしてしまいました。そのまま勤務を続けることは難しく、師長の紹介で院外のクリニックでカウンセリングを受けながら、1年間のお休みを取ることになりました。
なぜ心のバランスを失ってしまったのか
Aさんの例では手術室への異動がきっかけでしたが、他にも心のバランスを失ってしまうきっかけはたくさんあると思います。
これは看護師以外の職業でも同じことですが、看護師は人の命に関わること、頭・身体・心をすべて使う仕事であること、夜勤など人とは違う勤務時間の仕事があることなど、ストレッサーになる事柄がとても多いのです。
職場のストレスをチェックしてみよう
ではここで、厚生労働省が運営している「心の耳」というサイトから、「5分でできる職場のストレスチェック」の一部をご紹介しましょう。
5分でできる職場のストレスチェック
http://kokoro.mhlw.go.jp/check/
このチェックリストは4つのSTEPに分かれており、全部で57の質問に答えるようになっています。
この中からSTEP2の【最近1ヶ月のことについて】の質問に、「ほとんどなかった」「ときどきあった」「しばしばあった」「ほとんどいつもあった」で答えてください。
図1 厚生労働省 心の耳 「5分でできる職場のストレスチェック」より
いかがでしたか?このうち赤字のものが「しばしばあった」「ほとんどいつもあった」だった場合は、アナタの心のバランスは既に崩れかけているかもしれません。
心のバランスを保つ方法
心のバランスを保つ方法はいくつかあると思います。順番に試してみてください。
1. ストレッサーを排除すること
これが一番効果的かもしれませんが、もしこれが仕事だったらどうでしょう?仕事の何が自分にとってストレッサーなのでしょうか。まずはこれを自分なりに分析し、その原因を排除する方向に気持ちを持っていけば良いのです。
例えば、仕事量が多すぎる場合、どうすれば少しでも楽になるか、少しでも自分の仕事量を減らせるかを考えてみましょう。また仕事の内容が難しい・失敗が怖いという場合は、前日にしっかり予習(勉強)や準備をして、失敗しないような努力をまずしてみることです。
そして毎日の仕事が終わったら、その日の振り返りを必ずやりましょう。今日はどこが成功だったか、どこが不足していたか、これを洗い出すだけでも、翌日からの仕事に生かせると思います。
2. また、ストレッサーが同僚など人間関係だった場合は可能な限り接触しないこと
同僚の言葉使いがキツイ、陰口を言われているから嫌、そんな時は「気にしない」のが一番なのです。看護師だって人間ですから、ウマが合う・合わないはあります。たまたまウマが合わない人が同僚になっているのなら、自分への興味を持たせないよう、その同僚の前では失敗をしない努力をしてみるだけでも、違うと思いますよ。
3. ストレッサーを上手く排除できない時は、気の合う友人たちとパーッと騒いで発散すること
これも良いですね。特に女性にとっての「愚痴」は、ある意味デトックスのようなものです。誰かに愚痴をいうことで心がスッキリするなら、それだけでもアナタにとっては心にたまったゴミを吐き出しているのと同じなのです。
心のバランスを保つことの大切さ
日本看護協会が行っている統計調査によると、長期休暇を取得している看護師のおよそ3人に1人は(計算上は35.6%)は「メンタルヘルスの不調」だそうです。
一般労働者で過去1年以内にメンタルヘルスを理由に1ヶ月以上休職した人はおよそ0.1%だそうですので、看護師という職業がいかに心のバランスを崩しやすい職業なのかが分かります。
年代的には20歳代が最も多く、1病院に1人以上、存在している計算になります。
おわりに
看護師という職業は確かにストレスの多い職業です。でも自分にとってのストレッサーをいかにうまく排除できるか、または自分のまわりをストレッサーのない環境にしていけるか、この辺が「長く看護師を続けていけるかどうか」にかかっているのかもしれません。