人工呼吸療法時の援助

人工呼吸療法時の援助【いまさら聞けない看護技術】
公開日:2013年7月27日
最終更新日:2018年08月13日
(変更日:2018年10月30日) ※

目的

人工呼吸器装着中の観察ポイントや、援助のポイントについて理解する

必要物品・準備

必要物品

  • 人工呼吸器(患者の状態に応じて必要な機種を準備する)
  • ジャクソンリースなどの用手的換気用具
  • 必要に応じて気管内挿管用物品
  • 気管内・口腔内吸引セット

準備

  1. 人工呼吸療法の目的、適応、構造について理解しておく
    • 人工呼吸療法の目的
      • 必要な肺胞換気量の維持
      • 呼吸仕事量の軽減
      • 酸素やエネルギー消費量の軽減
      • 酸素化の改善原疾患が改善するまでの補助的換気
    • 人工呼吸療法の適応
      • 換気運動の障害:筋・神経疾患、外傷、呼吸筋疲労、全身麻酔
      • 肺内のガス交換障害:肺炎、無気肺、肺水腫、急性呼吸窮迫症候群(ARDS)
      • ショック状態による呼吸不全
      • 動脈血酸素分圧(PaO2)60mmHg以下、動脈血二酸化炭素分圧(PaCO2)50~60mmHg以下が適応となる
    • 人工呼吸療器の構造(Y字回路の場合)
      • 患者の口腔・気道→(Y字呼吸回路)→呼気弁→ガス流方向変換装置(送気装置を通して酸素・圧縮空気が送られる)→吸気弁→加温加湿器→(Y字呼吸回路)→患者の口腔・気道へ
  2. 人工呼吸器の換気モードについて把握しておく
    • 持続的強制換気(CMV):患者の呼吸すべてが強制的に行われる
    • 同期式間欠的強制換気(SIMV):患者の自発呼吸に合わせて強制換気が行われる
    • 呼気終末陽圧(PEEP):呼気時に完全に気道を開放せず、抵抗をかけて呼気終末の気道を陽圧に保つことで肺胞を膨らませ、無気肺予防と機能的残気量増加させる
      ※すべての換気モードとの併用が可能
    • 持続的陽圧換気(CPPV):持続的に呼気終末陽圧をかける
    • 持続的気道陽圧(CPAP):自発呼吸下で吸気・呼気に持続的に陽圧をかける
    • 圧支持換気(PSV):自発呼吸の吸気努力をトリガーとしてフローを送り、吸気を補助する
      ※自発呼吸との併用が可能
      ※吸気仕事量の軽減や人工呼吸器からの離脱(ウィーニング)目的でも使用される
  3. 人工呼吸器の点検や作動確認を行い環境を整え、呼吸器回路を組み立てる
    ※呼吸器回路は滅菌済みであること、破損や緩みがないことを確認する
    ※吸気側・呼気側を区別し正しく接続する

    • 加湿加温器は吸気側に設置し滅菌蒸留水を入れ、温度設定は37度前後とする
    • 患者側の温度センサーを32~35度に調節する
    • 電源を無停電電源に接続し、本体の耐圧チューブを酸素(緑色)と圧縮空気(黄色)の配管に正しく接続する
  4. テストラング装着、回路のリーク・閉塞の有無、アラーム設定や加湿加温器の作動状況の確認、条件設定での作動状況を確認をする
    ※換気モード、酸素濃度、一回換気量、回路内圧、換気回数、トリガーレベル、呼気終末期陽圧レベルが設定どおりに作動しているか
  5. 気管内挿管物品、ジャクソンリースなどの用手的換気物品、吸引物品を準備しておく

方法

  • 人工呼吸器装着中の患者に起きやすい合併症を予測し、予防的ケアを行う
    • 主な合併症
      • 気管内チューブ留置:咽頭喉頭浮腫、声門浮腫・損傷、気道粘膜の損傷、副鼻腔炎
      • 挿管操作:気管内チューブの閉塞、片肺換気、食道挿管、咽頭痙攣、気管支痙攣、歯牙損傷
      • 陽圧換気:圧外傷(陽圧換気による気道内圧上昇、肺の過膨張による肺損傷から肺胞内ガスが肺実質外へ漏出して皮下気腫・気胸を起こす)
      • 高濃度酸素投与:酸素中毒、肺コンプライアンス低下
      • 精神的ストレス:不眠、不穏、胃潰
      • 他臓器への影響:陽圧換気による心拍出量が減少、血圧低下、腎血流量低下などによる尿量減少、水分・ナトリウム貯留
      • その他の合併症:人工呼吸器関連肺炎(VAP)
    • 人工呼吸療法開始後48時間以降に起きる肺炎は、発症率7~40%、死亡率30%といわれる
      ※原因は、唾液や鼻咽頭分泌物・逆流した胃内容物の気管内侵入による誤嚥、汚染された呼吸器回路・加温加湿器からの細菌類の侵入がある
  • 合併症を踏まえた援助の内容・ポイント
    • 呼吸理学療法:呼吸障害の改善を目的とした理学療法
    • 吸引:無気肺や肺炎予防のため、気道内・口腔内の分泌物を除去する
    • 口腔内の清潔保持:細菌の気管への侵入防止のため、口腔内の洗浄や湿潤を保つ
    • コミュニケーション:発声ができないため、筆談・文字盤使用などを検討する
    • 睡眠の確保:睡眠パターンが崩れやすいため、生活リズムを確立できるよう努める
    • 目の保護:鎮静剤使用中はまばたき・閉眼困難となり、角膜のトラブルを起こしやすいため、点眼・洗浄後に保護する
  • 人工呼吸器装着に伴うトラブルとその対応方法について理解し、トラブル時は適切に対応する
    • 呼吸器のアラームが鳴った場合、本体・患者に異常が起きているというサインになるため、必要時用手的換気に切り替え、原因究明を行う
    • 作動停止、作動異常
      • 電源の脱落、停電、パイピングの脱落、ヒューズ切れが原因の場合、用手的換気に切り替え、原因除去するか他の器械へ交換す
      • 本体の異常が原因の場合、用手的換気に切り替え、他の機器へ交換するかメーカーへ連絡する
    • 気道内圧上昇
      • 回路の閉塞が原因:回路点検・調整、蛇管内の水を除去
      • 分泌物貯留、咳嗽、気道閉塞の場合、吸引、用手的換気を行う
      • ファイティングが原因の場合、ファイティングの原因を除去する
    • 気道内圧下降と換気量減少
      • 吸気弁の異常開放が原因の場合、再度正しく接続する
      • カフの破損・カフ圧低下が原因の場合、挿管チューブ交換、カフ圧を調整する
      • 回路の脱落や漏れの場合、回路を交換する
      • 気管内チューブの抜去が原因の場合、必要時はマスク換気を行い、医師による再挿管を行う
    • 気道内圧下降や換気量増大
      • 患者の自発呼吸が原因の場合、換気量が十分確保できていれば医師による条件設定変更が必要であることを報告する
    • その他の異常
      • 警報装置故障、モニタ装置故障、呼気終末陽圧や圧支持換気の作動異常が原因の場合、他の器械への交換と共にメーカーへ連絡する

観察項目

  • 患者の表情や呼吸困難などの訴えの有無
  • 患者の全身状態の把握
    • バイタルサインの変動、意識レベル、精神状態、疲労度、チアノーゼや四肢冷感の有無
    • 呼吸状態の把握
      • 呼吸数、呼吸パターン、呼吸音、呼吸困難の有無、痰の量と性状、胸郭の動きなど
  • 検査結果の確認
    • 動脈血ガス分析値、パルスオキシメーター表示酸素飽和度、胸部レントゲン写真、血液データ、肺機能検査結果など
  • 治療方針とその説明内容、患者・家族の受け止めの状況確認
  • 挿管チューブの固定位置・挿入長さ、挿管チューブや気管切開カニューレのカフ圧確認
  • 人工呼吸器の点検
    • 換気モードや設定
    • アラーム設定
    • 加湿器の蒸留水、呼吸器回路の緩みやねじれ・破損
    • 呼吸器の電源コンセントは無停電電源に接続されているか
    • 圧縮空気・酸素配管がパイピングに適切に挿入されているか、
    • 呼吸器が動かないようストッパーがかかっているか
  • 人工呼吸器の作動状況の確認
    • 気道内圧、自発呼吸の有無、実際の一回換気量、ファイティングの有無など

アセスメント

  • 患者が安全に人工呼吸療法を受けることができるよう準備ができたか
  • 人工呼吸器装着中の患者に起きやすい合併症を予測し、予防的看護が行えたか
  • 人工呼吸療法中の起こりうるトラブルを事前に予測し、トラブル時は適切に対応できたか

注意点

  • より専門性の高い臨床工学士(ME)が病院に在中している場合、連携を図りながらトラブルを未然に防ぐ事が必要である
  • 今後の治療方針により、換気モードの設定への変更などにより患者の状態が変化するため、治療のゴールはどこにあるのかを意識したケアを行う
  • 人工呼吸装着患者・家族は、挿管・気管切開中であることが多く、コミュニケーションを図りにくく不安となりやすいため、丁寧に対応し不安の緩和に努める
本コンテンツの情報は看護師監修のもと、看護師の調査、知見、ページ公開時の情報などに基づき記述されたものですが、正確性や安全性を保証するものでもありません。
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